バルセロナのグラシア通りに面したカサ・ミラはガウディ作品群のひとつ。かつてはラ・ペドレラ(石切場)のようだと揶揄されていましたが、今ではその名が愛称として定着。20世紀前半の富裕層の生活を再現した住宅と広い屋上、屋根裏、中庭を見学できます。屋根裏のスペースは1996年にガウディ博物館としてオープンし、ガウディ建築に関する興味深い展示を見ることができます。バルセロナでぜひ訪れたい場所のひとつです。
ガウディ最後の個人邸宅、カサ・ミラの完成まで

カサ・ミラ (Casa Mila )は、スペイン・カタロニア州が1962年に芸術遺産に指定した建築です。そして、1984年にはユネスコの世界文化遺産に登録されました。アントニ・ガウディが手がけた名作のひとつとして知られています。
20世紀初頭、当時もっとも注目を集めていたグラシア通り(Passeig de Gracia)。高級レストランやショップが次々とオープンし、上流階級が邸宅を建て始めました。
この通りに魅了され、実業家のペレ・ミラと妻ルゼー・セギモンは、ここに1835㎡の土地を購入。賃貸住宅と店舗を備えた邸宅の建設をアントニ・ガウディに依頼しました。

1906年からカサ・ミラの建設が始まり、1911年にミラ夫妻がメインフロアに入居。翌年1912年には他のフロアも賃貸として貸し出されました。
その後ガウディは、1883年から取り組んでいたサグラダ・ファミリアの設計に情熱を注ぎます。こうして、カサ・ミラはガウディが手がけた最後の個人邸宅となりました。
ミラの妻ルゼーは、夫が亡くなった6年後の1946年に、カサ・ミラを売却。しかし、彼女は1964年に亡くなるまで、自宅フロアで暮らし続けました。思い出深い家だったのでしょう。
カサ・ミラ見学ツアーの種類と「戦士の屋上」の魅力

カサ・ミラの見学ツアーは現在6種類あり、旅のスタイルに合わせて選べます。たとえば、オーディオガイド付きの自由見学や、英語・中国語のガイドツアー、さらに夜のカサ・ミラを訪れる少人数制の「ナイト・エクスペリエンス」も人気。日本語のオーディオガイドも用意されています。
なお、夜のツアー以外の順路は屋上から。入り口から案内され、エレベーターで最上階へ。そこから階段で屋上に上がり、スポットごとにオーディオガイドを聞きながら進みます。
「戦士の屋上(El terrat dels guerrers)」と呼ばれるこの空間には、鎧をまとった戦士をイメージした煙突や、タイル装飾の昇降口が立ち並びます。機能と美を兼ね備えたオブジェのようです。

中でも特に人気なのが、サグラダ・ファミリアを覗くことができるこの場所。ガウディのふたつの作品を同時に見ることができます。
サグラダ・ファミリアはカサ・ミラからプルベンサ通り(Carrer de Provenca)をまっすぐ北東に1.5kmほど進んだ場所にあります。

この写真はカサ・ミラの屋上から眺めたグラシア通り。この通りはカタルーニャ広場まで続いています。さらに屋上からはムンジュイックの丘、そして地中海まで360度の眺望が広がります。まさにバルセロナを一望できる絶景スポットです。
「クジラの屋根裏」とガウディの建築美学にふれる空間

曲線を描くレンガをトンネルのように連ねた構造が、クジラのお腹の中と喩えられる広い屋根裏。
「クジラの屋根裏(L’atic de la balena)」は、この上に広がる「戦士の屋上」をしっかりと支えています。
小さな窓が多数あり、風通しも良いので、かつては住民が洗濯物を干すスペースとして使われていました。現在は、ガウディ博物館として貴重な建築資料や模型が展示されています。

カサ・ミラの屋根裏構造を建築模型でみるとこの通り。レンガアーチが屋根裏全体をしっかりと支えていることが分かります。
また、地上階の中庭へとつながる大きな二つの穴が中央にあります。ここから自然光を取り込み、建物の内部全てに光を届けるというガウディの設計思想が現れています。

「クジラの屋根裏」と「戦士の屋上」の構造が一目でわかるカサ・ミラの建築模型も展示されています。さらに、ガウディの図面や資料なども豊富に揃っているので見逃せない空間です。そのため、カサ・ミラは時間にゆとりのある日に訪れて、ゆっくりと見て回りたい場所です。
カサ・ミラで体感する、20世紀初頭の富裕層の暮らし

ミラ夫妻が住んでいたメインフロアの4階上にある、最上階の賃貸住宅部分が、現在一般公開されています。ここでは、1900年から1930年頃のバルセロナの裕福な家庭の生活空間が、当時の家具や調度品を使い再現されています。
一方、メインフロアは、現在展示スペースとして利用されており、残念ながらミラ夫婦の私邸そのものは残っていません。それでも、壁や天井に残るレリーフ装飾などから、当時の様子をうかがうことができます。

また、当時使われていたミシンやアイロンなどの生活用品が展示されている部屋もあります。そのほか、仕事部屋や寝室、台所、バスルームも。そして中庭に面した太陽の降り注ぐ明るいフロアも見学できます。
住宅内を歩いていると、ふと気づくのが細部の美しさ。たとえば、ドアノブひとつをとっても、手に馴染むように考えられたデザイン。あらゆる箇所にカサ・ミラに住む人の目線で快適さを大切にしたガウディの設計哲学を感じます。
「花の中庭」と「蝶の中庭」から見上げた風景

「花の中庭(El pati de les flors)」の天井や壁には幻想的な色彩が広がります。そこには、花をモチーフにした模様が描かれています。壁に沿って円を描くように施された階段は、かつてミラ夫婦が暮らしたメインフロアへとつながります。

一方、「花の中庭」よりも広いもう一つの中庭は、「蝶の中庭(El pati de les papallones)」と呼ばれています。
その名前のとおり、中庭とメインフロアにつながる階段の屋根が、蝶の羽のようです。写真の玉虫色の装飾がその一部です。
ガウディは中庭に面して多くの窓を設け、自然光と風を建物全体に取り込めるよう設計しました。カサ・ミラもカサ・バトリョ同様、自然との調和を愛したガウディならではの建物です。
所在地:Passeig de Gracia, 92 08008 Barcelona
アクセス:メトロL3とL5、Diagonal駅下車、徒歩約2分
レンフェ(Renfe)、Passeig de Gracia駅下車、徒歩約6分
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なお、この記事は2020年5月にトラベルサイトに執筆したものです。その後、自身のブログに移して内容を更新しました。

