解体予定のマンションがビルの終活としてアート空間に!「セゾン代官山」で開催された期間限定イベント「ART GOLDEN GAI」(2025年1月9日~28日)に行ってきました。マンションの1・2階はデジタルアートギャラリー。そして、3~10階の50戸すべてがアーティストによる創作空間に。かつてのベルリンの廃墟で、取り壊される直前にアーティストの創作拠点兼住居となった、1990年前半の「Tacheles」を思わせるクリエイティブな空間でした。


アートゴールデン街になった解体予定のセゾン代官山へ

解体予定 ビルの終活 アート

セゾン代官山は、老朽化のため2025年2月に解体が予定されているマンションです。このビルの終活として一棟全体をアートで飾るとのことで見に出かけました。しかし、実際に訪れてみると、それほど古さを感じさせる建物ではありません。築年月は1986年4月だそうです。

「扉が閉まっている部屋も、自由に開けて入ってください。もしかしたら、中にアーティストがいて鍵をかけている場合もありますが。」と言って、受付の方がエレベーターまで案内してくれました。まずは10階に行き、階段で各フロアへ降りていくことにしました。


アート創作空間になったマンションの部屋

部屋の扉をひとつひとつ開けて中に入るワクワク感と、お化け屋敷に入るようなゾクゾク感が入り混じった感覚です。特にアーティストにより装飾された部屋は、それぞれが個性的で、一部屋ずつ覗いていく楽しみも。

何部屋か見て回るうちに、間取りにも興味を惹かれました。物件情報によると、部屋は17.98㎡〜28.4㎡で、1Rと1DKのみ。地方の古いホテルのような印象からか、JRパスで日本を北海道から九州まで旅した思い出が蘇ります。なかでもドイツに住んでいた頃、詳細を確認せずに予約して後悔した、日本のある田舎の駅前ホテルの記憶が重なります。セゾン代官山は住居としてはとても狭く、息が詰まりそうなマンションですが、自己表現の場として、一部屋を与えられたアーティスト達はさぞ楽しかったことでしょう。


ビルの終活として飾られたアート・マンションの3階から10階

賃貸マンションだった3階から10階の50戸の部屋は、異なるアーティストによって写真やデジタルサイネージ、ペイント、メッセージなどで彩られた空間に。それぞれの部屋が個性あふれる表現の場となっています。特に、壁や天井に直接描かれた作品は、解体される建物と一緒に消えてしまうので記録に残したくなります。


カラフルな階段や各フロアの装飾

各階のフロアや階段などの共有部分は、シーニック・アーティストのAmanda Hagyによるプロデュース。加えて日本人アーティストが、フロアごとのテーマに沿って手がけたという空間演出も興味深いです。


デジタルアートが展示される2階

デジタルアーツ

渦が描かれた2階の広いスペースには、ショートショートフィルムやデジタルアートが展示されていました。


旧東ベルリンのTachelesのような部屋

この写真の、カラフルなグラフィティで塗りつぶされている部屋は、1990年のベルリンのTachelesに戻ったような感覚に。当時ベルリンに住んでいたので、壁の崩壊後は旧東ベルリンにも頻繁にいくようになりました。そこで、たまたま見つけたTacheles。観光地になる前の、1990年前半のTachelesは、ドイツ統一前後でもあったので独特の雰囲気に包まれていました。


1990年のベルリン「芸術の家 Tacheles」

1990年のTacheles。ミノルタの一眼レフで撮った写真のプリントをスキャンしたものです。この建物は1908年に完成した大きなデパート。とはいえ時代の移り変わりとともに、様々な用途で使用され、一部はすでに取り壊されていました。「芸術」を意味する「Kunst」や「文化=Kulture」の文字が大きく描かれています。旧東ドイツのトラビがTachelesの前に停まっているのも興味深いです。

Berlin Tacheles
撮影1990年

完全に取り壊される直前の1990年2月に、芸術家イニシアチブ・Tachelesがこの建物を不法占拠。しかもアーティストの働きがけで、建物の状態と歴史的価値が公的に認められ、若い芸術家の創作拠点兼住居となりました。建物の安全性も確認されたとはいえ、裏側は壁もない状態。地震大国の日本ではすぐにでも解体されそうな建物です。「芸術の家=Kunst Haus」と描かれたのぼりや、アーティストの創作スペースには赤い椅子も置かれています。また、広い中庭には、ガラクタを集めたようなオブジェや彫刻作品などが展示されていました。


ART Golden Gaiとビルの終活

1990年代のベルリンと、JRパスで日本を北から南まで縦断した時の記憶を蘇らせてくれたアート展、ART Golden Gai 。そして、2025年2月に解体が予定されている、セゾン代官山というビルの終活。特に住居者やテナントが立ち退いた後の、解体までの空白期間を利用してアート空間にしたアイデアが素敵です。

今後、さらに新たな都市計画などで、解体されていく老朽化したビルや商店街がこんな終活を迎えたら、積極的に出かけたいと思いました。

<セゾン代官山/NOX Gallery EBISU>
Address:東京都渋谷区恵比寿西2丁目5−1 セゾン代官山
ART Golden Gai 公式ホームページ


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